対談

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対談 2012/2/29

日本の食文化を海外に伝える 楠本修二郎×辻口博啓

シンガポールとの深い縁

辻口: 楠本さんは経済産業省が推進している「クール・ジャパン海外戦略事業」のクリエイティブにも携わっていますが、今日はそのお話を伺いたいと思っていました。

楠本: もともと街づくりから考えてやってきたので、都市や商業開発のお手伝いもしています。このクール・ジャパンの活動というのは、“日本のライフスタイルを海外に広めて日本のファンを増やそう”ということ。カフェ・カンパニーがやってきたのは、その街にあったライフスタイルを表現して、街に集う人たちをどんどんつなげていこうよ、という発想です。街単位だとカフェになるものを、国単位ではクール・ジャパンに変えている。僕のなかでは一緒なんです。

辻口: プロジェクトのキックオフにシンガポールを選ばれたのは、どうしてですか?

楠本: 実はシンガポールには昔から縁があるんですよ。もともと親しい友人が住んでいて、学生時代からよく行っていました。そこには屋台村があって、ホーカーズというんですが、めちゃくちゃ活気があって。

辻口: どんな屋台が出ているんですか。

楠本: 鍋も麺類もスイーツもお酒もなんでもありますよ。夜になるとライブが始まって、ものすごく雰囲気がいい。それに、シンガポールは多民族国家ですから、中国系、マレー系、インド系、インドネシア系、アラブ系など多様な人種がいます。最近ではミャンマーやラオス、フィリピン、あとヨーロッパの人も増えていますが、ホーカーズはシンガポーリアンにとってはリビングの延長であり、さまざまな国籍のビジネスマンや観光客も集まってくる場です。その活気が好きで、カフェ・カンパニーをつくるきっかけのひとつになっているほど。シンガポールは僕にとってつながりが深く、ずっと見続けてきた場所なので、プロジェクトもここから始めたら面白いだろうと。

辻口: 人々が集って、音楽が流れて。ヨーロッパ文化な感じもありますね。

楠本: まさにヨーロッパにとってのカフェが、シンガポールのホーカーズなんです。90年代の終わりにシンガポール政府が食品衛生を強化し、屋台村としてのホーカーズはなくなっていきました。代わって登場してきたフードコートも充実していて、現代的にデザインし直しながらイキイキとしたライブ感を持ち続けているのは、屋台のノウハウがあったからでしょう。

ショーケースとしてのシンガポールと香港

辻口: シンガポールには日本の食文化を受け入れるような土壌はあるんですか。

楠本: みなさん日本の食がものすごく好きですよ。日本でフィルタリングされて、日本人好みの味になっている食のことを「日式洋食」と言います。たとえばパスタやハンバーグとか。あとラーメンがいい例で、ブームの風が吹いている今年、日本からラーメン屋だけで40軒もシンガポールに出店します。

辻口: この1年間だけでですか。すごいですね。いま、食の分野で海外進出しているところは、法整備のしっかりしているシンガポールや香港、台湾などでノウハウを蓄積してから、中国本土への展開を考えている企業が多いのかなと思いますが。

楠本: 特に香港とシンガポールが双璧でしょう。シンガポールは、東南アジアや南アジアへ向けたショーケースです。なかでもインドネシアは今後たいへんに有望な市場ですし、シンガポールで流行ったものをそのままフランチャイジーしたいというシンプルな事業者が多いと感じます。

辻口: 香港のほうはどうですか。

楠本: 香港は中国大陸進出に向けたショーケースですね。中国進出というと北京か上海かといわれ、そのためにまずは香港だ、という議論がなんとなくあります。しかし、香港と距離的に近い深圳から広州までを含めたあのデルタ地帯だけで1億の人間がいるわけで、この地域に特化するというやり方もありますよね。シンガポールや香港もそうですが、深圳も戦略的につくられてきた都市で、従来は工場の街で安い労働者を集めて繁栄してきましたが、急激に都市が成熟化してきた。人件費も上がり、サービス業など付加価値産業に移行してきています。

辻口: そうなるとコストパフォーマンスの良さだけじゃなく、よりおいしいものが求められる。

楠本: おっしゃる通りで、日式洋食とはそういう成熟してきた都市にチャンスがあります。

辻口: 私もベトナムで無農薬散布栽培の茶園「天空の辻口茶園」を経営していて、アジア市場での食ビジネスには大変興味があります。他の都市への進出はどうですか?

楠本: 候補地はいろいろ上がっていますが、最初から戦略ドメインを決めてしまうのではなく、どこかボブ・ディランみたいな感じでいいんじゃないかなと。「風に吹かれて」いくうちに決まっていく。主体性がないようですが、縁があるところが残っていくんです。


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