対談

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対談 2010/2/12

ミツバチはなんでも知っている シャクマンデス×辻口博啓

パリ13区にある「レザベイユ」は、天然100%以外を認めないハチミツ王国フランスで、とりわけ上質なハチミツを扱う専門店として知られています。オーナーのシャクマンデスさんは、パリのハチミツ協会の会長を務める養蜂家。「本物のハチミツをもっと日本に広めたい」という辻口シェフとの対談で、この自然の恵みについてゆったりと、ときにユーモアを交えながら語ってくれました。

文 橋本紀子 撮影 中本浩平

人工物をハチミツと呼ばないで

辻口:お久しぶりです。

シャクマンデス:お元気ですか。日本に来るときは、いつも辻口さんに会えるのを楽しみにしています。

辻口:私もです。「レザベイユ」のハチミツは濃厚で、すごくおいしくて。

シャクマンデス:ありがとうございます。褒められたことをパリに帰ったらうちのミツバチたちに伝えておきます。ハチミツは自然が作るもので、自然と向き合うのが養蜂の仕事です。まあ、ときどきミツハチに刺されながらですが(笑)。

辻口:刺されるのはどんな感じですか。

シャクマンデス:楽しくはないですが、養蜂家の中ではハチに刺されるのは健康にいいと言われてるんですよ。

辻口:そうなんですか。季節によって咲く花も変わるし、ハチミツはフランスでは旬の味わいとして売られているのでしょうか。

シャクマンデス:旬のものとしてとらえてもらうのはいいことです。ハチミツは蜜を採集する植物の違いによって色も香りも味も成分も異なります。100%ミツバチが作った自然の産物であることが何より大事で、完全に天然でないとフランスではハチミツ(Le miel :ル・ミエル=フランス語で天然ハチミツの意味)とは呼べません。

辻口:そこは日本とは大きく違いますね。日本で売られているハチミツには水あめなんかを加えていたり、加熱処理して水分を飛ばしていたり、いろいろな問題があります。

シャクマンデス:それをハチミツと呼ぶのは、フランスでは考えられません。ハチミツはミツバチにしか作れないのです。人の手が加わったらミツバチが作ったものではなく、人間が作ったものになる。完全に、100%自然食品であることにハチミツの素晴らしさがあるのです。

辻口:日本ではハチミツに対する基準が甘くて、それがこういう悲惨な状況を作っている。

シャクマンデス:消費者側の理解の問題も大きいのでしょう。日本ではラベルの裏をよく見れば「精製ハチミツ」などど書いてあっても、表にはふつうに「ハチミツ」と書いてあると聞きました。そのため天然100%のハチミツと、精製されたものがあるということを知らず、どれも同じと思っている消費者も多い。それで安いほうを選ぶ。繰り返しますが、天然のもの以外にハチミツはないのです。フランスでは法律ですごく厳しく決められていて、ほんの少し、たとえ1%でも人間の手を加えたら、「le miel(ハチミツ)」という単語を使うことはできません。

辻口:「レザベイユ」のハチミツのように、本物のハチミツを知ってもらいたい。そのためには日本でも基準を厳しくしたほうがいい。天然100%以外はラベルにハチミツとつけてはいけないようになればいいのに。

シャクマンデス:本当にそう思います。

蜜源の種類ごとに違うハチミツの効用

シャクマンデス:日本人はハチミツをどうように選んでいるのですか。

辻口:どうだろう。アカシアが一般的で、クセのないのが好まれるかな。

シャクマンデス:アカシアは子どもにいいですね。一番食べさせやすいです。

辻口:パティシエとして選ぶのは個性がぐっと出るもの。ミエルドサパン(もみの木のハチミツ)などが面白いと思いますね。「レザベイユ」のハチミツを使ってケーキやボンボンショコラなど、商品を変えながらいろいろ作っています。ガトー・フランボワーズにフランボワーズのハチミツを使ったり。「レザベイユ」だからこそ得ることのできる自然の香りを伝えたい。

シャクマンデス:フランボワーズの木に咲く花から採れるハチミツは、実の味はしません。でもフランボワーズのハチミツと聞けば、その名前から木苺の実の味を想像する人も多いんじゃないかな。フランスではひまわりや菜の花のハチミツがありますが、油のイメージが頭に浮かんでしまい、そのハチミツも油っぽいと思い込んでいる人もいるんですよ。そんなことないんですけどね(笑)。

辻口:フランスではどういうふうにハチミツを食べますか。

シャクマンデス:朝のパンに塗ります。バターと一緒に塗るとよりリッチです(笑)。

辻口:僕はヨーグルトにかけて食べるのが好きで、めちゃくちゃうまい。

シャクマンデス:それはフランス人もします。あとフロマージュブランやクレープ、コンポートにかけたり。パンデピスもいい。生地にハチミツを50%入れて作る伝統的なパンで、ハチミツのおいしさをたっぷり味わえます。

辻口:パンデピスはおいしいですね。

シャクマンデス:ハチミツを食べるのは健康にもいいですよ。蜜源の種類ごとに異なるいろいろな効能があります。アカシアは整腸作用、喉にはユーカリ、呼吸器官が悪いときは木苺やラベンダー、肝不全ならピッサンリ(西洋タンポポ)など、蜜の成分にはそれぞれにいろいろなメリットがあるんです。

辻口:フランスの人はそういった効能でハチミツを選んでいるんですか。

シャクマンデス:お店に来て、「ここが痛いんですが、どのハチミツがいいですか」と聞いてくるお客さまもいらっしゃいます。そういうときは話を聞きながら、その方にあったハチミツを選びます。ハチミツは薬ではありませんが、花ごとに効能があることを知って役立ててほしいですね。


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